BLOGブログ
【京都の弁護士が解説】相続法改正 | 配偶者居住権、遺産分割
こんにちは。株士会社KHCの福山勇毅です。
今回は、京都の住田浩史弁護士に2018年度の相続法改正(配偶者居住権、遺産分割)について解説して頂きます。
少し聞きなれない言葉や、難しい部分もあるかと思いますが、すでに施行されている法律もありますので、しっかりついていきましょう。
目次
(1)配偶者短期居住権:無条件で認められるが、あくまで緊急のもの
以下、本文になります。
さて、1980年以来(約40年ぶり)、相続制度の大改正が今行われています。
改正の全体のポイントは、前回でも書きましたが、もう一度復習しましょう。
① 遺言書(遺言)が使いやすくなった
② 亡くなった方(被相続人)の夫または妻(配偶者)の権利に配慮
③ 遺産をどう分けるかの話し合い(遺産分割協議)がしやすくなった
④ 相続登記が大事になった
⑤ 遺留分制度が単純になった
というように、まとめられると思います。
前回は、①についてまとめてみました。詳しくは、こちらをご覧ください。
*相続法改正その1 https://khc-inc.com/blog/law/
さて、第2回目の今回は、
② 配偶者の保護
③ 遺産分割協議に関する改正
について、簡単にみてみましょう。
まず、②配偶者の保護についてです。
今回の改正では、残された配偶者の保護を手厚くするため、亡くなった人の持ち家に無償で居住していた配偶者について、「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の2つの権利が認められました。
名前はよく似ていますが、別物ですので、注意しましょう。
(1)配偶者短期居住権:無条件で認められるが、あくまで緊急のもの
まず、「配偶者短期居住権」ですが、これは、ごく短期間は無償で住み続ける権利を認めるものです(新法1037条1項)。
改正前は、例えば、亡くなった人が生前「配偶者には使わせない!」(遺産分割により売却する)という意向を明らかに示していた場合などには、居住権が認められませんでした。
そこで、新法では、故人の意思にかかわらず、無条件で居住できるようにしたのです。
ただし、その期間は、極めて短期間であることには注意が必要です。
例えば、居住建物について配偶者を含む相続人間で遺産の分割をする場合は、遺産分割の成立時までか、相続開始時から6か月が経過するまでです(新法1037 条1項1号)。
また、居住建物を第三者に遺贈等する場合は、居住建物を取得した者から申入れがあってから6か月が経過するまで、となります(同条1項2号)。
これに対して、「配偶者居住権」は、いつでも認められるものではありません。
①遺産分割によって配偶者居住権を取得するとき(新法1028条1項1号)、②遺言書で遺贈の目的とされたとき(同項2号)のほか、③死因贈与契約があるとき(民法554条、新法1028条1項2号)があります。
改正前は、例えば「子どもに建物の所有権は渡したいけれども、妻には居住させてあげたい!」というニーズに応えるのは困難でした。例えば、しばらくたって、子どもが母親(亡くなった人の妻)とケンカをして「やっぱり売る!」と言い出したら、妻は出て行かなくてはならなくなかったのです。
そこで、新法は、そのようなニーズがある場合、一定の手続きを踏めば、居住建物を無償で使えるが処分することができない配偶者居住権を認めて、配偶者が安心して家に住めるようにしたのです。
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者が生きている間(終身)、ということになりますが、遺言などで、より短い期間とすることができます(新法1030条)。
さて、このように、配偶者居住権は、みんなにとってなんだか良さそうなことばかりですね。
でも、いくつか注意したい点があります。
1点目は、第三者からは、このような権利があるかどうかわかりません。よって、配偶者は「配偶者居住権」の登記をしておかなければなりません(新法1031条2号)。
2点目は、配偶者居住権も遺産の一つである、ということです。よって、遺産分割による場合は、その分、配偶者が取得できる分が減ります。また、相続税課税の対象ともなります。この点は、(1)の配偶者短期居住権とは異なります。
そして3点目、この権利は、法律の趣旨から「配偶者のみが取得・行使できる権利」であり、第三者に譲渡することはできません(新法1032条2項)。出ていくときに、建物所有者に買い取ってもらうという任意の交渉はできますが、処分が困難と考えていただいた方がよいでしょう。そのため、あらかじめ、建物所有(予定)者との間で、買取りの合意をしたりしておくことが考えられます。
いずれにせよ、このあたりは、前もって、慎重な検討が必要でしょう。
なお、この(1)(2)の改正については、2020年4月1日施行です(その日以降に死亡した場合、またはその日以降に遺言を作成した場合に適用があります)ので、ご注意ください。
そのほか、遺産分割協議に関して、いくつか制度が使いやすくなった場面があります。
これによって、遺産分割協議がスムーズに進むことが期待されます。
預貯金は「遺産」であり、遺産分割協議が成立する前は、相続人の一人が引き出すことはできません。
そうすると、例えば、被相続人の債務の弁済ができなくなるなどといった不都合が生じることもあります。このことがネックで、遺産分割協議が進まないこともあります。
これまでは、このような場合、緊急の必要性がある場合に限り、裁判所に申し立てて、仮分割の仮処分を出してもらい、払戻しを受けることができるだけでした。
新法では、その要件が緩和されて、預貯金債権の仮分割の必要性が認められやすくなりました(家事事件手続法200条3項)。
とはいえ、いくら要件が緩和されたとしても、裁判所に申し立てをしないといけない、とすれば、誰にでもできるものではありません、かなり面倒です。
そこで、新法は、裁判所に申し立てをしなくても、預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の1/3に、相続人の相続分を乗じた額については、単独で払戻し請求ができる、としました(新法909条の2)。
ただし、これには上限額があり、金融機関ごとに150万円と定められています。
なお、これらはあくまで「仮払い」なので、最終的には、遺産分割のときに精算するということになります。
さて、遺産分割協議では、一部の相続人により勝手に相続財産が処分されるようなケースが見られ、それにより紛争が激化することがしばしば見受けられます。
これについても、今回、法律上の手当がされました。
今回の相続法改正により、「遺産の分割前に遺産が処分された場合、処分した者以外の相続人全員の同意があれば、処分された財産を遺産分割の対象に含めることができる」こととされたのです(新法906条の2)。
これまでは、遺産分割前に処分された財産は遺産でなくなるため、遺産分割とは別の裁判を起こして不当利得や損害賠償を請求するしかありませんでした。
そして、その間、遺産分割協議が事実上ストップし、手続の長期化を招くことがありました。
新法では、これについても、ひとつの遺産分割手続の中で一挙解決できるようにしたのです。これも便利ですね。
これらの点については2019年7月1日に既に施行されており、その日以降に亡くなった方について、改正法の適用があります。
さて、今回は、
② 亡くなった方(被相続人)の夫または妻(配偶者)の権利に配慮
③ 遺産をどう分けるかの話し合い(遺産分割協議)がしやすくなった
をみてきました。
次回は、相続法改正その3として、④相続登記が大事になったことと、⑤遺留分制度が単純になったことについて、お話しします。
お読みいただき、ありがとうございました。
執筆者:弁護士 住田 浩史(御池総合法律事務所)
2004年 京都弁護士会に弁護士登録
2016年4月〜 京都大学法科大学院 非常勤講師(消費者法)