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相続法改正の施行日・時期はいつから?概要を徹底解説!

相続制度が変わることを皆さんご存知でしょうか?

御池総合法律事務所の弁護士 住田 浩史がその概要や内容について、徹底解説していきたいと思います。

 

40年ぶりの大改正

1980年以来(約40年ぶり)、相続制度が大改正がされる事になり、大きく変わることになりました。

改正のタイミングは、2019年から2020年にかけて小刻みに4段階に分かれています。そう、まさに今、相続制度が変わりつつあるのです。

 

これから、3回に分けて、主な改正のポイントを簡単に紹介していこうと思います。決して難しくありませんので、どうぞお付き合いください。

 

全体として、どんな改正なの?

今回は、さまざまな観点から改正がされています。

あえてまとめるなら、、、

① 遺言書(遺言)が使いやすくなった

② 亡くなった方(被相続人)の夫または妻(配偶者)の権利に配慮

③ 遺産をどう分けるかの話し合い(遺産分割協議)がしやすくなった

④ 相続登記が大事になった

⑤ 遺留分制度が単純になった

というように、まとめられると思います。

今回は、①について、簡単にまとめてみました。

 

 ①遺言書(遺言)が使いやすくなった

(1) 遺言は大事

遺言は、とても大事です。

もし、遺言がなければ、遺産は、残されたお子さんや兄弟姉妹などの「法定相続人」がどう分けるかの話し合い(遺産分割協議)をしなければ、分けられません。

遺産が多くても少なくても、もめていなくても、仲が良くても、同じです。

 

その話し合いは、もちろん、自動的には始まりません。

だれもが、「だれかが動くだろう」と思って、結局、億劫になって、そのままになってしまうというケースも少なくありません。

 

きちんとした遺言があれば、このような話し合いをしなくても、この遺産はお兄さん、この遺産は妹さん、というように、亡くなった方の意思に沿って、遺産を分けられるのです。

 

(2) 改正前の問題

ところが、これまでの制度では、遺言書のうち、「自筆証書遺言」の書き方には、全文自筆でなければ無効になる、という厳格な決まりがあって、自筆証書遺言自体が、あまり活用されてきませんでした。

(その他には、公正証書で作る「公正証書遺言」などもあります。)

 

また、

  • せっかく遺言書を作成しても紛失する恐れもあったり、
  • 家庭裁判所で検認という手続きを受ける必要があったり、
  • また「誰が書いたのかわからない」という争いになったりして、

遺言により相続の争いがおさまらないということもありました。

 

また、遺言には「遺言執行者」といって、遺言の内容を実現するべき人を任命することができるのですが、実際には、任命されたはいいものの、何をどうやってやればいいかわからない、ということで、せっかくの遺言の実現が進まない、ということもありました。

 

では、改正法ではどこが変わったのでしょうか。

主な改正点を、順々に、みていきましょう。

 

(3) A 自筆証書遺言が作りやすくなりました

とにかく、全文自筆、というのがこれまでの法律でした。

これに対して、改正民法968条は、次のようになりました

(すみません、条文は、読み飛ばしてもらって結構です!)。

これは、つい先日、2019年1月13日に施行されたばかりの条文です。

 

<改正民法968条>
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を

自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産

(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部

又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを

要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない

記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければ

ならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、

その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、

その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 

2項が新設されています。

つまり、自筆証書遺言のうち、財産のリストについては、リストの全ページに署名と押印をすれば、パソコンで作成したりしてもいいですよ(その他のページは全文自筆が必要)、ということになったのです。

 

財産のリストは、金額や証券番号など細かい数字が出てきたり、土地や建物の住所を長々と書かないといけないので、自筆だとどうしても書き間違いがありますし、何より面倒でした。

パソコンで作る方が、読む方も読みやすいですよね。

これで、遺言書が、少しだけ作りやすくなりましたね。

 

(4) B 自筆証書遺言の審査、保管制度ができます

次に、自筆証書遺言について、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律ができました。施行されるのは、2020年7月10日と、ちょっと先です。

 

これによって、自筆証書遺言を、法務局の「保管官」に形式面をチェックしてもらい、その上で、保管をしてもらうことができるようになります。さらに、この審査、保管をしてもらった遺言については、家庭裁判所の「検認」という手続きが不要となります。

遺言書をめぐる手続きが少し楽になり、遺言書を誰が書いたのか、という紛争も起きにくくなるでしょう。

 

(5) C 遺言執行者の任務がわかりやすくなります

遺言執行者は、遺言書の内容を実現するため、遺言で指定されたり、家庭裁判所から任命されたりします。ところが、じゃあ一体何をすればいいのか、というと、これまでの法律の規定はかなり曖昧で、実際に遺言の内容の実現が難しいということもありました。

 

そこで、いくつかの条文が見直されました。

この改正は、2019年7月1日に施行されます(これも読み飛ばしてもらって結構です!)。

 

<改正民法1007条>
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を

行わなければならない。

2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、

遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 

<改正民法1012条>
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の

管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 

2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが

行うことができる。

3 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者に

ついて準用する。

 

<改正民法1014条>
前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合

には、その財産についてのみ適用する。

 

2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同

相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継

遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が

第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為を

することができる。

 

3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に

規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金

又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、

解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の

目的である場合に限る。

 

4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示

したときは、その意思に従う。

 

<改正民法1015条>
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした

行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

 

<改正民法1016条>
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることが

できる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、

その意思に従う。

 

2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることに

ついてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に

対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

 

ポイントは、

 

① 任務開始時の通知義務(相続人に「私が遺言執行者になりました」というお手紙を出す)が明確化された

 

② 遺言執行者の管理権限が限定された(何でもかんでも保管管理する義務も権利もあるわけではなく、遺言の内容実現のために必要な範囲に限られる)

 

③ 遺言執行者の、遺贈や特定財産承継(「相続させる」遺言)、預貯金の払戻等についての権限がわかりやすくなった

 

④ 復任権(遺言執行者の代理人を選任する権利)が原則的に認められたということになります。

 

要するに、遺言執行者が、いろいろな場面で、任務の遂行を行いやすくなったということです。遺言執行者の経験上、特に銀行との関係で苦労することがありますが、今後は少しはその苦労も減りそうです。

 

結びに

いかがでしたか?遺言が作りやすく、また、使いやすくなったということですね。

公正証書遺言は手数料がかかるから、と躊躇していた方も、これを機に、自筆証書遺言を作成してみてはいかがでしょうか。

なお、そのほか、遺言については遺贈の担保責任についての改正もあったのですが、ここでは省略していますので、あしからずご了承ください。

 

次回は、、、こちら

②配偶者の保護

③遺産分割協議に関する改正をご紹介する予定です。

お読みいただき、ありがとうございました。

執筆者:弁護士 住田 浩史(御池総合法律事務所)
2004年  京都弁護士会に弁護士登録
2016年4月〜 京都大学法科大学院 非常勤講師(消費者法)
http://www.oike-law.gr.jp/lawyer/sumida/